岡崎五朗のクルマでいきたい Vol.177 鳥の目、虫の目、魚の目

文・岡崎五朗

ほんの1、2年前にあれほど盛り上がっていたEVシフト。しかし最近はマーケットでの不調ぶりが連日伝えられている。

 大手メディアが次々に掌を返す姿を目の当たりにして思ったのは、記者の方は「現在」しか見ていないんだなということ。各国政府が強気のEV普及政策をぶち上げ、メーカーもそれに乗った発表をしている状況下では「世界はすでにEVに舵を切ったのだ。日本は出遅れている」と書きたてる。しかし各国政府の方針転換やマーケットでの苦戦が伝えられると「EVはダメだ。本命はハイブリッドだ」と書く。パーフェクトなパワートレーンなんてないのだから、すべての持ち駒を適材適所で使っていくのが肝心なのに、なぜか決め打ちになってしまう。大手メディアは定期的な人事異動が行われるためクルマのプロがいないのが諸悪の根源だ。

 とはいえ、掌を返せるだけまだマシとも言える。昨今よく見かけるのが「たしかに現時点ではハイブリッドが人気だが、長期的に見ると世界はEVに移行していくのだから日本メーカーは安心してないでEV開発を積極的に勧めるべきだ」という論調。しかし、ハイブリッドがあるからEVなんてやらなくてもいい、なんていってる日本メーカーは1社もない。たしかにラインナップはまだ少ないが、それはコスト、航続距離、充電時間、電池寿命、充電インフラ、発火リスクなどなど、EVが抱える問題に真摯に向き合いつつ、日夜ユーザーに受け入れられるEV作りに取り組んでいる段階だからだ。それをしないで、不完全な商品をとりあえず出してしまうから昨今のようなEV離れが起こったわけだ。

 そんな事情も理解せずに、日本メーカーがハイブリッドにかまけてEV開発を怠っているかのように書くのは完全なミスリードだ。ここで面白いことに気付いた。そういう主張をしている人の多くは、つい最近まで「今後のクルマはEVで確定!」と主張していた。つまり、自分の予測が外れたことを認めようとせず、苦し紛れに上から目線でメーカーに訓垂れているというわけだ。言論人としてこれはかなり恥ずかしい行為である。

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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