50代にススメるバイク VOL.13 カテゴライズのないクロスオーバー SUZUKI GSX-S1000GX

文・伊丹孝裕 写真・淵本智信

それが示されることがすっかり当たり前になっていて、もしもないと不安になるし、聞きたくもなる。

 新たなプロダクトが登場した時、そのキャラクターを表すコンセプトやカテゴリーのことだ。とりわけ、こうやって他者に伝える場合は、書き出しのきっかけとして有効だから、なおさらである。それがはっきりしていればいるほど、短いワードで的確に表現することができる。

 スズキが今年投入したニューモデル「GSX-S1000GX」はどうか。手元にある資料やカタログでは「グランドクロスオーバー」、「スポーツクロスオーバー」と表現され、スポーツツアラーにアドベンチャーのエッセンスを加えた多目的なモデルに仕立てられていることがわかる。「GSX-S1000GTにVストローム1050の風味添え」といったところで、4輪になぞらえるとSUVに相当する。排気量や装備の充実度からすると、そのセグメントの中でもフルサイズのSUVと言っていい。つまり、フラッグシップとしてのポジショニングだ。

 事実、スズキのラインナップの中では、ハヤブサに次いで2番目に高価であり、電子制御サスペンションを筆頭とする各種デバイスの先進性は随一のもの。かなりラグジュアリーな存在である。

 したがってそれらしく、たとえば欧州のライダーのような優雅な使い方しか似合わないのではないか。ここ日本では、そんな風に身の置きどころのなさが漂いそうだが、様々なシーンを走らせた後、当初の印象はすっかり霧散していた。なにも、ゆとりに満ちた特別な旅である必要はない。そこが広い大地である必要もない。なんでもない日常でも決して持て余さない、カジュアルさを備えていることがわかったからだ。

 これはちょっとした発見だった。グランドツアラーなら長距離ツーリングに、スーパースポーツならワインディングやサーキットに……と、なにかに当てはめ、それで自身を縛ってしまいがちだ。カテゴリーに沿い、コンセプトに従うと、そこに安心感を覚えるものだが、それではあまりにステレオタイプが過ぎる。

 GSX-S1000GXには、確かにスズキが掲げるテーマ性がある。そこに思い描いている物語性がある。しかしながら、ちょっとした提案の一面に過ぎない。レストランで料理が出された時、席についた客にとって大切なことは、ただ美味しいかどうか、そこでのひと時が満足のいくものであるかどうかだ。料理人が厨房で下準備にどれほど手間を掛けたか、なにを思って包丁を入れたのか。それは表に出てくるものでも、出すものでも本来はない。

 その意味で、GSX-S1000GXはなににも捉われることなく、ただ操り、ただ移動することを純粋に楽しむことができた。クロスオーバーというなら確かにそうだ。どんなカテゴリーも自由に行き来できる身軽さがあるからこそ、その頭に付いているのが、グランドでもスポーツでもスーパースポーツでもなんでもいい。思い立った時にいつでも走り出し、どんな場面でも心地よさを味わえる、くつろぎの感覚が隅々にまで行き届いていた。

 このモデルを手に入れ、シート上にいるところを想像する。ウインドスクリーン越しに見えてくるのは、山間を貫く高速道路だったり、眼下に海が広がるワインディングだったりするが、現実的にはそこへ至るまでに狭い街中を抜け、混んだ道をやり過ごさなければいけない。そして、GSX-S1000GXの振る舞いは、そういう時にこそ活きる。実に楽なのだ。走っていても止まっていても躰のどこにも負担がなく、エンジンは力強く、ハンドルの切れ角はたっぷりあり、極低速でもフットワークが軽い。ハイスピードも高荷重も受け留めるタフさに本領がある一方、都会の雑踏へ連れ出すことが驚くほど苦にならないのだ。そういうシチュエーションの中でスイスイと操れたなら、これほど粋なモデルもなく、実際にそれができてしまうところに真髄がある。

 なんでもカテゴライズしてもらわないと安心できない人が増えた。遊び方を提示してもらわないと動けない人も多い。GSX-S1000GXにそんな枠組みはなく、どう使うかは乗り手に委ねられている。自身の価値観をきちんと確立している、スマートなライダーが選ぶモデルである。

SUZUKI GSX-S1000GX

車両本体価格:1,991,000円(税込)
エンジン:水冷4サイクル直列4気筒/DOHC・4バルブ
総排気量:998㎤
装備重量:232kg(燃料・潤滑油・冷却水・バッテリー液含む)
最高出力:110kW(150PS)/11,000rpm
最大トルク:105Nm(10.7kgm)/9,250rpm
燃料消費率(WMTCモード):17.0㎞/L(クラス3、サブクラス3-2)1名乗車時

伊丹孝裕/Takahiro Itami

1971年生まれ。二輪専門誌『Clubman』の編集長を務めた後、憧れていたマン島TTに出場するため’07年にフリーライターとして独立。地方選手権を経て国際A級ライセンスを取得後、2010年にマン島TTを完走。2012年〜2015年の鈴鹿8耐や2013、’14、’16年のパイクスピークにも参戦した。2020年に紙媒体の仕事を辞めると宣言したが本誌のみ継続している。

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