次世代ジャーナリストを探せ Vol.4 二者択一を超えたバランスの世界へ~僕たちは、これからクルマとどう向き合っていけばいいのか~

世の中の多くのことはさまざまな背景の中で起こっており、正解を導き出すことは簡単ではない。

しかし私たちは自分たちの頭で考えることを放棄し、つい、分かりやすい議論、分かりやすい答えに飛びついてしまう。より良い世界とはたぶん、二者択一の先にはないのではないだろうか。

まとめ・先川知香 写真・淵本智信

世界中で「カーボンニュートラル」に向けた取り組みが本格化され、EU諸国を中心とする大手自動車メーカーがこぞってEVへの転換を発表する中、
日本政府も「2035年までに、乗用車新車販売で電動車(EV、FCV、PHEV、HEV)100%」という目標を掲げている。

カーボンニュートラル問題とは切っても切り離せない政治的視点を絡め、モータージャーナリストの岡崎五朗氏と衆議院議員 鈴木淳司氏の対談をお届けしたい。

カーボンニュートラル実現に向けた取り組み

岡崎五朗(以下、岡崎) 僕は鈴木先生を凄い人だと思っているんです。エネルギーとしての原子力に関して今までシッカリと大切さを説いて来られ、党の中で規制特別委員会の委員長をされている。政治家は選挙という洗礼を受けなければならないから、口触りのいい事を言った方が当選しやすいにもかかわらず、敢えて「日本には原子力発電が必要だ」との主張をし続けてこられた。その信念は、どこから来ているのでしょうか?

鈴木淳司(以下、鈴木) 本当に思っている事だからです。ゼロ・カーボンのベースロード電源たる原発は無いとやっていけないと本当にそう思っているのです。

岡崎 なるほど。

鈴木 日本は原子力発電の相当な技術力を持っていましたが、3.11であれだけの大事故を起こしたので世論が反対方向に傾いてしまったのは仕方ないと思います。ただ実際には脱炭素のベースロード電源たる原子力で電力を安定供給させることなしに、カーボンニュートラルを実現することはできません。安全規制を追求することは当然としても、その審査を効率よく進める、いわゆる審査の最適化をやってくれと主張してきました。

岡崎 これからはDX(デジタルトランスフォーメーション)によってさらに急速に世の中がデジタル化していきますから、電気の需要はますます高まりますよね。

鈴木 ええ、再エネだけでは絶対に足りません。だからこそ原子力発電の必要性を強く主張し続けてきたという訳です。選挙と原子力というのは相反するところがあるので、普通の政治家は言わないでしょう。でもこれはどうしてもやらなくてはならないことなので街頭や演説会でもそう主張してきましたが、今のところあまり否定的な声は聞こえてきません。

岡崎 それは、伝わったという事ですか?

鈴木 現に「よく言った!」、「そう思っていた」という声もあって大きな突破口でした。再エネも当然、必要だと考えているので、否定はしません。ただその再エネを伸ばし、安定的に活用するためにも原子力発電が必要なんです。

岡崎 それに加えて先生は総務大臣時代、宮城県の「再生エネルギー地域共生促進税条例」を承認しましたよね。森林を伐採して太陽光発電を増やす事業者に税金をかけ、適正な場所に太陽光発電パネルを誘導するための条例。あれは確か宮城県議会が議決したものですが、総務大臣の承認が無いと実現しなかった。

鈴木 その方向に異論はないので同意しました。

原発再稼働と全車EV化の問題点は同じ

岡崎 原子力発電の重要性をアピールしながら、再エネの税を承認したとなると、あいつは原発推進派で再エネ反対派だと誤解される事はありませんでしたか?

鈴木 そう見られがちですね。私は原子力発電を最大限活用するべきだと思うし、再エネも最大限活用したい。その全てはバランスだと考えているのです。しかし、分かりやすい議論は、賛成か反対か、白か黒か。だからメディアも含めてどちらかに色分けしたがるのですが、本当はそんな単純なものではない。そこを分かっていただけるようにしたいのです。

岡崎 この話はEVの問題と全く同じです。僕はEVを全く否定はしておらず、EVも必要だけどエンジン車やハイブリッド車も必要だという主張をしてきたのですが、あいつはEV反対派だとずいぶん言われてきました。

鈴木 共通項があるので、すごくよく分かります。経済産業委員会でも、「再エネオンリーだ!」、「原子力はダメだ!」という方もいますしね。そんな簡単なものではないと、全体を見れば分かるはずなのに、「これしか無い!」と主張する再エネ一神教の人たちがいるんです。まさにEVもそれに近い状況の時があって、経産省自体が「これからはEVだ!」みたいな話をいとも簡単に言うので「EVも必要だけど、日本は絶対に内燃機関も必要だ」と。内燃機関を無くしては日本の強みを失うと思っていたので、その主張をし続けました。

岡崎 先生のお立場から日本の自動車産業をEVの観点から見ると、どんな風に見えますか?

鈴木 ここ最近の傾向としては、EVに対する否定的な意見がだんだん広がってきて、売り上げも落ちてきている。補助金が無くなれば一気にダメになると思います。ただこれは当面のトレンドであって、EVがダメなのではなく、どうやって良いEVを作るかというのを考えることが今の大きな課題だと思います。

「カーボンニュートラル実現」に向けたEVの在り方

岡崎 2020年から2021年にかけて欧州が、2035年にエンジン車やハイブリッド車を禁止すると言いだした。しかしそれがここに来て実現不可能という風向きに変わってきています。僕はそれをとても面白いと感じていて、ある意味で有権者がEVを選ぶ、選ばないという意見を持って一票を投じているんだと思うんです。つまり自動車のユーザーが政治を動かしたんじゃないかと。でもこれは僕らユーザー側からの視点です。政治側にいらっしゃる先生から見ると違って見えているのでしょうか?

鈴木 EV化というのはある意味のゲームチェンジで、日本の強みたる内燃機関技術を一気に消してゲームチェンジをしようというヨーロッパの思惑があったんだと思いますし、中国もそれに乗った。ところがその変化に付随するいろんな現象を見ると、もちろんEVも必要だけど、やはり内燃機関というのは大事だとみんなが気付いてきた。欧州がEV化への姿勢を緩め始めたのは、当然の流れだと思います。

岡崎 そう考えると購買活動を通じて意思表明をすると政治も動かせるっていう、小さな自信に繋がったんです。

鈴木 そうなればいいですよね。各自の冷静な判断の結果としてですが。

判断のための選択肢を伝えるのがメディアの仕事

岡崎 何が正しいか。そう考えると、メディアはとても重要だと思います。

鈴木 メディアはとかく白か黒かの分かりやすい議論にしたがる。でも政治というのはそんなものではなくバランスの話なので、そういう議論が生きるようにしたい。しかしメディアは難しい議論を報じてはくれない。

岡崎 政治は正に、白と黒の中間にあるグレーのグラデーションの中で、それぞれにとってちょうどいい部分を、議論をしながら決めていく仕事。だから分かりにくい部分もあるけど、それが本質だという事ですか?

鈴木 そうです。これは理屈ではなく、あの人が言っているならそうだなって思ってほしい。何を言っているのかではなく、そういう価値判断ができる人だと思われないと、政治家はダメですよね。

岡崎 確かに、バランス論の中では、どうしても分かりにくい。でも、あの人が言っているなら、それでいいのだろう思ってもらえるのが理想ですね。

鈴木 そう在りたいですね。

岡崎 TVに出て白か黒かというパワーワードを沢山使い、聴衆を引き付けるような人に我々はどうしても惹かれてしまうけど、そうならないように気を付けなければいけない。

鈴木 それが政治の難しいところで、白か黒かという議論はわかりやすいし面白いけど、だんだん本質からズレていくと私は思います。

岡崎 EV化の話でも、どうしてもEVかエンジンかみたいに両極端に偏りがちな話を、両方必要で、この場合はあちらがいいけど、この場合はこちらがいいというような処方箋を伝えるのが、メディアの役割ですよね。

鈴木 そう。こういう選択肢がある中であなたならどうする? と問いかけるような役割をメディアが担うべきで、最後に判断をするのは購買者。思い込みによる変なミスリードをしないで欲しいですね。

一次エネルギー:石油、天然ガス、石炭、原子力、太陽光、風力など自然から直接採取できるエネルギーを指す。一次エネルギーを転換・加工することで得られる電力、都市ガス、水素、ガソリンや灯油などを二次エネルギーと言う。エネルギー自給率:国民生活や経済活動に必要な一次エネルギーのうち、自国内で算出・確保できる比率。出典:経産省 資源エネルギー庁 広報パンフレット「日本のエネルギー2023」

白か黒ではなく「グレー」という選択肢を受け入れる

岡崎 EVに関して世界は今後、どういう風に動いていくとご覧になっていますか?

鈴木 EVは今は少し低調ではありますが、いずれまた伸びて来ると思います。その時にEVは何を担うかというのが重要。内燃機関やHVの技術力も保持していて、その中で特に日本がやるべきなのは、一番購買層が多い日用品の買いまわりなどで自宅近隣を走るクルマがベースになると思う。そしてEVと合成燃料・内燃車だけでなくFCV(燃料電池車)など他の選択肢も含めて、このジャンルでも最後は日本メーカー各社に勝ってほしい。クルマの果たす役割というのは色々とあるので、それぞれの局面で一番ふさわしい最適解は何かを考えながらバランスをとっていく必要があると思います。ただ、EVの場合は電気が大量に必要となるので、それをどう賄うのかという点も重要です。電力の安定供給は絶対に不可欠。クルマ単体ではなく、エネルギー供給全体の問題も含めトータルでの議論、理解も深めてもらいたい。

岡崎 2021年の、ちょうど総裁選の直前ぐらいに、当時の日本自動車工業会会長だった豊田章男さんが、政治に対して、あるいは産業界に対して、そしてユーザーに対して強い発信をしたんですよ。ものすごい危機感を持って、全部EVになったら、日本に製造業がなくなると。普通は企業のトップが政治に物申す事はあまりありませんが、僕は豊田章男さんの、あの勇気を持った発言が、日本の行先を変えたと思うんです。

鈴木 私はあまり個人を持ち上げたりしませんが、やはり自分の会社や自工会を超えて「日本」を発信しているのはすごいことです。まさにそれが必要で、この問題はみんなの課題として真剣に考えてほしいと。それは、政治や官僚への大きなメッセージでもあったと思います。いとも安直にEVだとか、内燃機関はダメとか、そんな単純な話ではない。その中で日本をかけて本当に戦っている章男さんの発信に私は非常に熱いものを感じました。

岡崎 海外の動きなどを見ていると、EUとか政府が打ち出した方針に、内心では無理だと思いつつも乗っかってしまった自動車メーカーは今、大変な状況になっています。やはり、ダメな時はNOとハッキリ言う勇気が、民間にも必要なんだと思いました。

鈴木 そうですよね。安易にその時々の時流に乗っかるのは、やっぱり良くない。自分自身で懸命に考えて、自分で判断して、初めて納得がいくものになると思います。

鈴木淳司/Junji Suzuki

1958年愛知県瀬戸市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、故松下幸之助氏に共鳴し、松下政経塾に入塾。2003年衆議院議員選挙にて初当選後、当選を重ねながら主要役職を歴任し、2023年に総務大臣に就任。自民党原子力規制に関する特別委員会委員長・衆議院原子力問題調査特別委員会委員長等を務め、現在は衆議院経済産業委員会に所属。

岡崎五朗/Goro Okazaki

1966年 東京都生まれ
1989年 青山学院大学理工学部機械工学科卒
1989年 モータージャーナリスト活動開始
2008年より テレビ神奈川の自動車番組「クルマでいこう」メインMC
2009年より 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
2009年より 日本自動車ジャーナリスト協会理事
2009年より ワールド・カー・アワード選考委員

対談をまとめたのは 先川知香/Chika Sakikawa

ツインリンクもてぎで見たMotoGPの一糸乱れぬコーナリングを見て、バイクでのサーキット走行に興味を持ち、モータースポーツの世界へ。その後、乗り物を操作する事の楽しさに目覚め、モータージャーナリストを目指す。愛車はトヨタ86/カワサキZX-25R/GASGAS TX200。大型自動二輪免許に加え、大型一種免許も取得。Webや紙媒体でも執筆している。